About Us

そこに行けば心を豊かにしてくれる空間、

お茶を飲んでいるとつい時間を忘れそうになって、

一人を楽しみたい人もおしゃべりを楽しみたい人も、みんなを楽しみたい人も、

それぞれがそれぞれに過ごすことのできるちょっとした隠れ家が、グラニーズです。

本と手作りと日々の暮らしを愛する女性のために!

2020年2月24日月曜日

蛾次郎寿司とメープルシロップ ― 弁造さんのエスキース展(3)

弁造さんのエスキース展があと一週間に迫りました。3月2日月曜日から19日木曜日まで、グラニーズのギャラリーには弁造さんの世界が繰り広げられる予定です。
カフェは通常通り平日の11時半から3時半までの営業ですが、このイベントに合わせて新しいランチメニューを用意することにしました。

奥山さんの『庭とエスキース』によれば、90歳を過ぎ嚥下にも困難を感じるようになっていた、最晩年の弁造さんの夕飯の定番メニューは蛾次郎寿司なるものだったそうです。寅さんの映画に”源”の役で出ている佐藤蛾次郎が、酢飯にお総菜の残りを刻んで混ぜ、海苔を巻いて手巻き寿司にして食べると美味しいと言っていたのをテレビで見て、「これだ!」と試したところ、体調もよくなったとすっかりはまっていたそうなのです。たしかに酢飯は健康に良いかも。そして美味しい!本の中の蛾次郎寿司の描写は食欲をそそるものではないのですが、でも3月、春です。弁造さんと一緒にお寿司を頂くことにしましょう。というわけでチラシ寿司です。スープがつきます。

そして食後の甘味には黒蜜の代わりにメープルシロップをかけたあん蜜です。

自給自足の庭を作る計画を立てたとき、弁造さんは穀物や野菜、果樹やタンパクを庭で賄う他に、”甘味”を何で得ようかと考え、サトウカエデ(メープル)に思い至ったのでした。北大から種子を分けてもらいそれを大切に育て、いつしか大樹に成長した7本のメープルは弁造さんの庭のシンボルになりました。奥山さんの写真の随所に美しいメープルの大木が写っています。
                   
       

       

       
 
でも結局弁造さんは愛情を注いで育てた木の幹に穴を開け、樹液を吸い上げるということが可哀そうで、ついにシロップが採れなかったことは前回も書きました。

下の絵はモーゼスおばあさんのメープルを採取している絵です。弁造さんは種を播き若木を育てているとき、一度は北海道にこういうメープルの森を作ることを夢見たのでしょうが、成りませんでした。
                    









2020年2月2日日曜日

弁造さんのエスキース展(2)

弁造さんの庭は、一つの家族が自給自足できるように綿密に計画されていました。奥山淳志さんは弁造さんの書き残したメモや覚書のような小さなものも注意深く記録していますので、写真集を見ていると、弁造さんの庭の設計や農作業の計画なども見えてきます。2年もかけてスコップ1本で掘り上げた池にたんぱく源になる生き物を放ち、野菜を育て果樹を植え、小鳥の餌になる実のなる木も植え、一年を通じて順に作物を収穫できるようにしていました。甘みのためにはわざわざメープルを苗木から育て、秋には美しく紅葉する大木に育ちました。(でも結局、樹液を採るため樹皮を傷つけるのが可哀そうで、メープルシロップは夢に終わったそうです)。

              


衝動のようにさえ行われる
すべての農業労働を
冷たく透明な解析によって
その藍いろの影といっしょに
舞踊の範囲にまで高めよ


と詩に書いたのは宮沢賢治ですが、弁造さんの農業労働は本当に芸術の域に達していたかのようです。

そして若い時から絵が好きで農閑期には東京の美術学校に通い、絵描きになるのが夢だった弁造さん。人生の紆余曲折で一度はあきらめたものの、もう一度絵筆をとり始め、一生に一度は個展を開きたかった弁造さん。その夢を叶えてあげようと、弁造さんが残した沢山のエスキース(絵の下絵)を持って、奥山淳志さんは「弁造さんのエスキース展」のため、各地を東奔西走中です。仙台展もあと一カ月となりました。3月2日からエスキース展、最終日3月19日には奥山さんのトークショーがあります。